コーヒーと農薬の危険性について解説します。
本記事を読むと
・コーヒーと農薬の関係
・コーヒーに使用される農薬のリスク
・コーヒーの木の病気
・オーガニックコーヒーのメリット
などがわかります。
オーガニックコーヒーを専門に扱う、
珈琲焙煎士の10年の経験を元に、
わかりやすく解説します。
コーヒーは食品で世界NO,1 農薬使用量の多い作物
コーヒーは食品として、世界で最も農薬使用量の多い農作物です。
食品として、NO,1。
食品以外の全ての農作物も含める順位では、1位は綿花。
それでも、この世界中の全ての農作物という括りでも、
コーヒーはなんと2位になります。
世界中の7割のコーヒーが農薬を使用して作られていると言われています。
コーヒー好きにとっては、
正直とても嬉しくない情報です。
綿花とコーヒーの農薬使用を止めれば、
世界中の農薬の1/3がなくなるとの指摘もあります。
それ程多くの農薬を使用して作られているという背景があります。
コーヒーが生産可能な地域をコーヒーベルトと言います。
赤道から、北緯と南緯それぞれ25度ずつの、北回帰線、南回帰線の
範囲内がコーヒーの生産地になります。
世界中の国の総人口に対して、この狭い範囲で
世界中のコーヒーの需要に応えなければならない。
そうなると、当然、安定した大量の生産が必要になります。
そのために農薬や化学肥料を使用しなければならない現状があります。
コーヒーに使われる農薬の種類と数
コーヒーに使用される農薬の種類は、
世界中のものを合わせると140種類以上あると言われます。
非常にざっくりと、ジャンルまとめると、
・除草剤
・殺菌剤(対カビ、キノコ類など)
・殺虫剤(対ダニ、シロアリ、コクゾウムシ、蛾など)
・くん煙剤
などの農薬が使用されています。
これらの中には、DDT、枯葉剤(ベトナム戦争で使用された)など、
一般の私たちでも危険性が十分わかりそうな農薬も含まれます。
③コーヒーに使用される農薬の危険性
・除草剤
発ガン性、白内障、生殖器異常、発達障害の要因、パーキンソン病など
・殺虫剤
白血病、リンパ腫、発ガン性、筋無力症、
緑内障、排尿障害、腸管麻痺、先天異常(子供の脳障害)
痙攣、嘔吐など
・くん煙剤
変異原性(発ガンリスクと遺伝的障害)、
気管支の収縮、呼吸困難、肺水腫
悪心、嘔吐、腹痛、下痢、失禁、皮膚・粘膜の障害
血圧低下、視力障害、全身の筋力低下、呼吸筋麻痺
頻脈、高血圧、高血糖・中枢神経系の症状
頭痛、不穏、運動失調、意識障害、痙れん
難治性の遅発性神経障害など
上記のリスクはわかりやすいものを抜粋した内容で、
これ以外にも上記農薬の危険性は数多く指摘されています。
農薬の未知の恐ろしさ
農薬の掛け算
農薬の恐ろしさという点で、
解明されていない事実があります。
それは農薬の掛け算です。
農薬の使用というのは、一種類だけの農薬を
使用するということは極めて稀で、
用途別に何種類もの農薬を複数回にわたって
使用することがほとんどです。
例えば、コーヒーの残留農薬規制で度々引っかかる、
ジクロルボスという殺虫剤があります。この農薬単体では、
発ガン性、変異原性という農薬被害があることがわかっています。
ですが、複数の農薬を使用した際のリスクは「不明」とされている
ケースが多いという現状があります。
農薬を複数使用する際のリスクは、解明されていないがために、
単体で農薬を使用するのに対して、数倍、数十倍の危険性が生じる、
単体のリスク以外の新たな病気や健康被害のリスクを発生させる
可能性があるとの指摘もあり、
未知のリスクが伴っている可能性が大いにあります。
コーヒー栽培に使用される農薬の種類は非常に多く、
それらの農薬を複合的に使用した場合の人体や環境への影響を
逐一テストすることは天文学的な数値や情報を必要とすることから、
実質調査は行われず、「不明」の一言で片付けられてしまっています。
直ちに健康に与える影響はない
農薬の被害の恐ろしい所は、
直ちに目に見えるような被害がないという事です。
そして、体内に蓄積し続けるという恐ろしさがあります。
原発の放射能問題などでも聞き覚えのある、
「直ちに健康に与える影響はない」という言葉。
だったら、逆の発想で考えると、
「長期的に見ると、健康に与える影響がある」
という見方ができます。
農薬の恐ろしさを例えるときに、
こんな話がよく出ます。
カエルを水を張った鍋に入れる。
そのまま、鍋を弱火にかける。
すると、カエルは温度の上昇に気づくことができずに
茹であげられて死んでしまう。
農薬もこれと同じです。
目に見えてわからない小さなリスクが体内に蓄積されて
それが長期化することで、
病気や免疫力の低下、生物としての生命力が低下する。
しかも、これは自分という世代で終わるのではなく、
自分の後の世代にまで
影響を及ぼす恐れがある事が示唆されています。
現代人が昔にはなかった、
アトピーや様々なアレルギー症状、
ガンや白血病などの多発。
そして不妊や精子異常など少子化に悩まされている事、
自閉症やADHDなどの先天的な子供の
知的障害が増加している事、
人間としての生命力が全体的に低下している事など、
それらの病気や脳の障害などの一因が農薬にある可能性があります。
ただ、詳細な調査結果が存在しないために「不明」とされ、
公表されず、まるでリスクが存在しないように、
あたかも影響がないかのように扱われているのが現状です。
残留農薬の値
一杯のコーヒーがテーブルに置かれるまでに、
常温での揮発や、焙煎過程での農薬の揮発など
残留農薬がほぼなくなるという説があります。
一方で残留農薬は15%は残るという指摘もあります。
これはどちらを信じるかという事になりますが、
何%残るかということよりも、
残留の可能性があるということが重要です。
農薬の被害はまだまだ未知であり、
私たちコーヒーの消費者にも、生産農家にも被害の可能性がある、
実は知っておかなければならない大事な話です。
コーヒーとさび病
さび病について
さび病というコーヒーの木においては
致命的な病気があります。
コーヒー農家にとって、最も頭を悩ませるのが、
このさび病対策です。
さび病とは、コーヒーの葉に錆び付いたような
色の斑点が出現し、次第に増え、
光合成機能を失わせ、落葉させ、
最終的にはコーヒーの木そのものを枯らしてしまうという、
コーヒーの木にとっては致命的な病気になります。
さらにこのさび病は、空気感染、水を媒介としても感染し、
その感染力が非常に強い。
さび病が見つかったコーヒー農園は、
数年にわたり、対応に追われることになります。
適切な処置ができないと、全てのコーヒーの木が枯れ、
その農園自体がなくなってしまう危険性があるからです。
しかもコーヒの木はこのさび病に対する耐性が非常に弱く、
現在、世界で最も好まれて飲まれている
アラビカ種というコーヒーの種は特に耐性が弱い品種になります。
一国の産業を滅ぼした威力
1970年にはブラジルに大規模なさび病の被害が出て、
その後数年にわたり、中米諸島にまで被害が拡大し、
世界のコーヒー市場を大混乱に陥れました。
スリランカは現在は紅茶の産地として世界的に有名ですが、
実は元々はコーヒーの生産国でした。
1869年にさび病が大発生し、
スリランカのコーヒー産業は壊滅しました。
コーヒーに代わる産業としてとして
スリランカが導入したのが紅茶の栽培であり、
それが現在まで続いています。
コーヒー栽培の歴史は、さび病との戦いの歴史といっても
過言ではない程、このさび病の影響力は大きいです。
さび病への対策
間引き
さび病に侵された木を切り倒す作業です。
地道ですが、これが最も効果的だという見解があり、
現在でもこの間引き作業が
コーヒー農家で数多く行われています。
品種改良
コーヒーの木そのものをさび病に耐性のある品種に作り変える努力です。
ロブスタ種という、味の質はアラビカ種よりも劣るのですが、
さび病にはある程度の耐性があるコーヒーの種があります。
そのロブスタ種とアラビカ種の掛け合わせを行う事で、
さび病に耐性を持たせながら、
品質をなるべく落とさない品種の開発が行われています。
農薬の使用
銅系の殺菌剤を雨季に1~2ヶ月の感覚で
散布する事により、防止します。
コーヒー栽培のさび病防止には農薬の使用が主流となっており、
さび病防止のための農薬の使用は必要不可欠となっている現状があります。
オーガニックのコーヒー栽培では、農薬の使用はできないので、
1の間引きと、3の品種改良で対策することになります。
コーヒーと燻蒸(くんじょう)
燻蒸という聴き慣れない処理があります。
聴き慣れませんが、私たちが飲む、
オーガニック以外のコーヒー全てに施されている処理です。
コーヒーに使われる農薬は、栽培時のみに使われるわけではありません。
コーヒー豆は大まかにいうと、
栽培収穫→精製→乾燥という工程を経て、
麻袋に入れられて輸出されるわけですが、
最後の輸出入時においても農薬が使用されます。
それが燻蒸(くんじょう)という、農薬を用いた殺虫処理です。
コーヒー豆は輸出入時には食物としてではなく、
植物として取り扱われます。
ここで、検疫という検査が必要になります。
日本の生態系を守る必要から、
外来種の持ち込みが禁止されている
という話は聞いたことがあるかと思いますが、
それがコーヒーにも該当します。
コーヒーの豆にはブロッカという豆食い虫、
ハタメイガという蛾やその幼虫が
豆の中に穴を空けて住み着いていることがあり、
この虫が日本国内に入り込むのを防ぐ必要があります。
コーヒー豆を置いた室内に、強力な有機リン系や
アルミニウム系の殺虫剤を霧状にして充満させます。
豆の中の中まで農薬を浸透させ殺虫するのが、この燻蒸処理です。
日本の家庭において、誰もが知っているあの、バ◯サンと同じ原理です。
それよりも格段に強力な農薬を直接豆に充填させます。
この燻蒸に使用される農薬は常温で揮発するので、
処理後には安全になるという話もありますが、
一方で残留するという話もあり、
諸説分かれる見解が存在します。
ただ、分かっていることは、
劇薬に指定されている、かなり危険な類の農薬を
豆の中の中まで充填しているという事です。
家庭の害虫駆除のために売られている
くん煙剤の使用には、「食品や食器にかからないように」
という注意書きが必ずあります。
これは誰でもわかる事で、
殺虫成分のある薬が食品や食器にかかると、
それを人間が直接口に入れてしまうから、
危険だという事です。
でも、コーヒーに関してはこれの真逆で、
直接口に入れる食品に対して、
家庭のくん煙剤よりもはるかに危険度が高い薬品を
直接コーヒー豆の中の中まで充填させて殺虫する
処理を行っているという事です。
ポイントは、燻蒸処理は人間のための処理ではないという事。
人間のための食品としての安全性を考慮した処理ではなく、
対植物としての殺虫処理ということになります。
だから、劇薬を使用することに躊躇はない。
躊躇していたら、害虫の駆除はできないからです。
焙煎豆の輸入には検査が必要ない
また、見落としてはならないコーヒー豆の話があります。
生豆の輸入に関しては、残留農薬の規制がありますが、
海外で焙煎された豆を輸入する際には、規制がない
という、矛盾したような決まりがあります。
海外で焙煎されたコーヒー豆は
日本では禁止されている農薬の残留値が検出されても、
焙煎工場のある海外での基準で認可していれば、
日本に輸出しても良いという事になってしまっています。
生豆の残留農薬の検査では、一定の基準がありながら、
焙煎された豆となると基準が無くなるという不思議な仕組みがあります。
最近は大手コーヒーチェーンの会社でも、
日本国内での焙煎が増えてきています。
国内で焙煎されたコーヒーであれば、
輸入の際の規制をクリアしたものであることが確認できますが、
焙煎した所がわからないようなコーヒーの商品、
安価なコーヒー商品などは、
気をつけたほうが良い可能性があります。
まとめ
・コーヒーは食品として世界第1位の農薬使用量の作物。
・コーヒーに使用される農薬は除草剤、除菌剤、殺虫剤、くん煙材など140種以上。
・コーヒーに使用される農薬のリスクは
発ガン性、ホルモン異常、遺伝異常、呼吸器障害、循環器障害
脳の発達異常など多岐に渡る
・農薬は、複数使用の掛け算リスクが存在する。
体内に蓄積し、長期化リスクが存在する。
残留値は、ほぼ無くなるという説もあれば、
15%は残留するという説もある。
・コーヒーにとって最も脅威となるさび病。
その防止に農薬の使用は欠かせない現状。
・燻蒸(くんじょう)という輸出入時に施される強力な殺虫処理がある。
・焙煎された豆の輸出に関しては日本の規制がない
オーガニックコーヒーという選択
ここまで、農薬の危険性を述べてきました。
もっと掘り下げれば、農薬のリスクを挙げることは
いくらでもできます。
農薬の使用は、現在の世界の食物生産には欠かせないため、
あってないようなもの、というように
見えにくくされている現状があります。
世界中の人が、普段から口に入れる食物に農薬が使用されている
ということを知っています。
でも、どれほどの危険性があるのか?
その長期化するリスクはどれほどのものなのか?
そのリスクの具体的な症状は何なのか?
ということに関しては、企業もメディアもほとんど報じず、
まるで隠されている、リスクがないような錯覚を起こさせていますし、
私たち消費者も盲目になっている現状があると思います。
農薬のリスクを考えたら何も食べられれなくなる、
何も飲めなくなる。それも現状です。
もし、世界中のコーヒー農家が、農薬の使用を辞めたらどうなるか?
単純に考えると、世界中の7割のコーヒーがなくなります。
もし、世界中のコーヒー農家が無農薬栽培に切り替えても、
現在の世界中のコーヒー需要の半分程の収穫量となるでしょう。
世界中の半分の国がコーヒーが飲めなくなる。
あるいは、私たち消費者が今の半分のコーヒーしか
飲めなくなる。
1日一杯飲んでいたコーヒーが2日に一回しか飲めなくなる。
さらに、今のコーヒーの値段が倍に跳ね上がる。
コーヒーも他の作物と同じく、
需要と供給のバランスで豆の単価が決まっています。
オーガニックにこだわる珈琲屋をやっていますが、
声高にオーガニックのみを主張できないと正直思います。
これはなかなか慎重に考えなければならない問題です。
コーヒーのみならず、実際に世界中の農産物に対して
農薬の使用をやめてしまったら、
食物生産の効率が落ち、
多くの人が餓死してしまうでしょう。
だから農薬が必要なんだ、という考え方もできます。
でも、このまま突き進んで良いのかというと、
私はそうではないと思います。
世界中が今SDGsを推し進めています。
このまま行くと、人類が、地球が危ない。
やっとそのことに対して、対策がまとめられ、
現段階ではコンセプトがまとまりつつあります。
実際にこれからどう行動していくかが課題です。
一気に農薬の使用を辞めるということはおそらく不可能でしょう。
だから、少しずつ、徐々に切り替えていくという
選択肢が必要だと思います。
これはコーヒーをはじめとする地球規模での
食物生産全てに関係する選択肢です。
その選択肢の末端を握っているのが私たち消費者の
買い物という選択であり、
その買い物は回り回って、食物生産の農家の生産に
繋がっていきます。
オーガニックの需要が増え、そこにお金を投入する消費者が
増えれば、当然オーガニックの供給も増やす必要が生じ、
結果的にオーガニックの農業が普及し、発展する。
オーガニックの農業が発展すれば、
オーガニック農業の効率化が進み、
オーガニック食品の単価が下がる。
そうなると、より品質の良いオーガニック商品が
安く手に入りやすくなる。
その結果、人類が健康を手にし、
動物植物、地球環境も、生態系全体が守られる。
そのような好循環を生み出したいと切に願います。
ぜひ、日常のコーヒーの選択からでも、
オーガニックコーヒーという選択の
小さなアクションから初めて見ることをお勧めします。
オーガニックコーヒーについての解説記事はこちら
それは回り回って農家の生産に繋がり、そして地球環境を守り、
私たち人類がこの後も持続可能に生きる選択を
取ることができるためのアクションになります。
しかめがね珈琲
スペシャリティークラスの上質なオーガニック珈琲を自家焙煎しています。
コメント
とても勉強になりました。ありがとうございます。
わしはカンボジアにあるUEDACOFFEEのJinと申します
オーナーが以前からの友達で、リニューアルオープンに伴いマネージメントをさせていただいています。弊社は2010年にプノンペンにコーヒー豆メーカーとして開業しカフェオープン、トゥクトゥクという乗り物で路上販売を始めて地域密着型で地元のお客様に愛されています。近年プノンペンは経済成長と共にナショナルチェーンや地元の人の企業が出店ラッシュとなっておりコーヒーショップは飽和状態となっています。
そんな当店も全面改装してリニューアルオープンしました。
わしは元々調理師ですがコーヒーの知識は全くありません。
カンボジアでもコーヒーの栽培をしている地域があり先日、社長含めスッタフたちと
農場見学に行ってきました。
コーヒー豆について調べていたところこの記事を目にしてとても勉強になりました。
本当にありがとうございます。
これからも貴重な情報を配信してください。
LIM JIN様
いただきましたコメントが、こちらの設定のミスだったのか、
非表示となっておりまして、本日気がつきました。
お返事が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
カンボジアのプノンペンは経済成長が著しく、
出店ラッシュなのですね。
日本もそのようなかつての経済成長が望まれていますが…。
希望を持っていきたい所です。
当店のブログをご覧いただき、ありがとうございます。
更新がなかなかできず、新しい記事が書けていないのが、
大変申し訳ないのですが、
今後色々と当店ならではのコーヒーに関する記事を
執筆していこうと思っておりますので、
お付き合いいただければ幸いです。
カンボジアのUEDA COFFEEのインスタを拝見いたしました。
ロブスタを主にお取り扱いなのですね。
当店ではロブスタの豆の使用を検討したことはあり、
サンプルを焙煎したことまではあるのですが、
現在はまだロブスタの取り扱いはない状況です。
昨今のブラジル冷害、珈琲生豆の価格高騰なども考慮して、
病害虫に強く、低地でも栽培が可能で、
価格的にもリーズナブルなロブスタにも関心を持っております。
UEDA COFFEE様の羨ましいところは、
何より現地での豆の調達が可能というところ。
日本の珈琲屋では絶対叶わない事です。
同じ珈琲屋として今後ともお付き合いいただければ
大変嬉しく思います。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
しかめがね珈琲